名取洋之助写真賞受賞作品展

先日、作品展の案内状が届きました。

その葉書には、見覚えのある方のなんとも言えない幸せそうな写真が写っていました。

数年前、常連の青木さんがいつものように来られて、膵臓癌で後3ヶ月の余命だと淡々と口にされました。

それは日常会話のなかの、ありふれた出来事のようでした。

私は、返す言葉が見つからなかった。

あれから一度だけ来店されて、たわいもない話をして、帰られた。

私は自分の描いた作品を差し出して、願いを込めて描きましたと。それが精一杯私にできることだった。

それから数ヶ月が過ぎて、他の方から、青木さんが亡くなられたことを知りました。

青木さんは定年退職してから、写真の専門学校に3年通われ、熱心に写真を撮り続け、若い方と写真集を作ったり個展をされたりしていました。

そのなかで、息子さんのような年齢のお友達が、生前から亡くなるまでの青木さんを撮り続けた写真が、今回入選したというわけです。

展示されている写真は、奥様や息子さんを亡くされた、青木さんの哀しみや後悔が滲み出た作品で、自然と涙が溢れてしまうものでした。

少し薄暗くなった時間にいつも来てくださった青木さん。

青木さんの深い寂しさや、哀しさに気づかなかった。

カフェは美味しい飲み物やお料理と、居心地の良い空間を提供する事だけれど、ココカラに来る事で、心の空洞を埋める何かができたのだろうか。

そう考えるのは傲慢かもしれない。

ただ人生の僅かな時間でもすれ違った者として、もっともっと私にできる事はなかったのかと。

数年前、父が亡くなり、友人が、お客様がお亡くなりになり、いつも思う。

幸せだったんだろうかと。

後悔はなかったんだろうかと。

私も後悔のないように、幸せだったと思えるようにと、今日を今を生きたいと強く思う。

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